物語だんだん

だんだん物語となるべし段の談

2021-01-01から1年間の記事一覧

嘆きのハンス

「鍵は開かなかった」ハンスはベッドにうつぶせになり泣いていました。「鍵も縄もこんなに上手なのに、トーラは僕のこと、マイスターじゃないって言うんだ」ハンスが何故マイスターになれないのか、私は理解しました。私がいる間、この世界に存在している間…

黄金の鍵

ハンスは燭台を手に暗い廊下を進んだ。奥の壁に掛けられた絵の前で立ち止るとうつむいた。これまでこの絵をちゃんと見たことがなかった。ハンスは意を決して顔を上げた。「ああっ」描かれている女性はハンスの祖母だった。祖母はハンスが小さい頃に亡くなっ…

秘密の部屋

「隠し部屋だ」 サトウは手にしていたランタンを部屋の中にかざした。暗闇に診察台らしきベッドがいくつか浮かび上がった。ほかに何もない空間にポツンポツンと置かれた診察台が不気味だった。「秘薬は、きっとここにあるんだわ。この秘密の部屋のどこかに隠…

ハンスの帰城

トーラは執事に馬を手配させた。だが途中の村にはすぐに城へ向かえる馬はいなかった。「サトウ、まだ帰れそうにない。馬で行くのが一番早いのだけど、今、使えるのは私の愛馬ノアだけ。二人乗りじゃこの山を下るのは難しい」 診療所 トーラの弟 ハンスの仕事…

退院の日

サキの病室の窓から百日紅が見えた。赤い花。この一年いろいろなことがあった。三軒坂校舎の火災。逃げ遅れて救助されたこと。菊坂の新しい校舎。そして骨折、入院。幸い2週間ほどで退院できる見込みで9月にはまた美術学校へ通えそうだ。 病室 退院の前日 退…

美術学校の盆休み

盆が近くなり、サキは本所の実家へ帰省することにした。実家から学校までさほど遠くはなかったが、ほとんどの生徒は寄宿舎に入るのでサキも寄宿舎へ入舎していた。 盆休み 帰省 居残り 寄宿舎廊下 実家 寄宿舎 天祥堂医院 寄宿舎廊下 降霊会 盆休み 「今年は…

御茶ノ水天神のお札

御茶ノ水天神への石段を登りながら、サキは配色を考えていた。途中まで構図を考えた水彩画に今日こそ色を載せようと思った。先週、赤い絵の具を溶いたところでためらってしまった。あの火事の炎を思い出してしまうのだった。 御茶ノ水天神 新しい校舎 校庭 …

松田画伯の子どもたち

朝稽古の仕上げに竹を切った。太刀の切れ味はまあまあだった。洋平は落ちた竹を片付けて庭を軽く掃いた。放っておいてもお手伝いのカヤさんがきれいに片付けてくれるのだが、師匠の深谷家元がいつも自分で道場の雑巾掛けまでしているので、洋平は稽古の後始…

校長室の絵

美術学校 放課後 火事 美術学校 フミは校長室のドアをノックした。 「校長先生、お届け物です」 返事がないのでドアを開けて中へ入った。校長先生は不在のことが多い。ほかの施設と兼任してこの学校の校長を務めているからだ。ここは女性の自立を目指して女…

佐藤先生の往診

松田画伯が事故により急死した。洋平とユカリは孤児となった。 松田画伯の家 佐藤先生 松田画伯の家 「洋平君、この度は本当にご愁傷さまです」 玄関で帽子を取った佐藤先生は高い背を折り曲げながら挨拶した。 「佐藤先生、ご無沙汰しています」 「葬儀のと…

腕に傷のある男

タイトル:異国の森の診療所舞台:美術学校登場人物:サキ メグミ フミ 山本先生 異国の森の診療所 美術学校 登場人物 フミ フミは次の停留場で降りるため乗降口の近くへ移動した。 「すみません」 前方にいた男性と軽くぶつかってしまい謝ると男性も「失礼…

地下室の鍵

トーラはサトウを連れて実家へ戻ったが、父から結婚を反対された。トーラは代々続く診療所の跡取りだった。サトウと結婚して家を出ることは許してもらえなかった。 ハンスとサトウ トーラとハンス サトウとトーラ ハンスとサトウ サトウはハンスを見直した。…