長編小説を一編だけ書いたことがある。校正を重ねて投稿した。箸にも棒にも掛からなかった。すっぱりと足を洗い小説のことはすっかり忘れた、つもりだったが、ふとした瞬間、登場人物たちの見た光景が甦る。
たとえばサトウが病院の窓から見た三日月。サトウは月を見上げて、遠い記憶、ドイツの深い森で見た三日月を思い出すのだ。
たとえば天井の高い洋館。そこは美術学校の寄宿舎。フミは山本先生の後をついて夜の寄宿舎を歩く。
心に残っている場面を振り返りたくなった。イラストにして少しずつ書いていきたい。登場人物たちが望むままに。